第3回|実践編

生成AIをどう活用したらいいの?

指示するのではなく「対話」する。AIと一緒に仕事を進めるコツ

AIの作業机を、人間が整えながら、一緒に仕事を進める。

第3回のテーマは、実践です。

ただし、ここでいう「実践」は、便利なプロンプト集を覚えることではありません。

第1回では、生成AIは「いま与えられた文脈をもとに、文章の続きが一番自然になるように生成している」と学びました。
第2回では、その文脈を「作業机」と呼び、作業机に何を置くべきか、何を置いてはいけないのかを扱いました。

第3回では、その続きとして、AIの作業机を人間が整えながら一緒に仕事を進めることを実演します。

AI活用とは、AIに完璧な命令を一発で出すことではありません。むしろ、

  • 何をしたいのかをざっくり伝える
  • AIに「何が必要か」を聞く
  • 出てきた質問に答える
  • AIの出力を見ながら、足りない前提を追加する
  • 途中でズレたら、作業机を整理する
  • 最後は人間が確認して決める

という、対話のプロセスです。

目次
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01

まず、安心してほしいこと

生成AIを使うときに、最初から完璧なプロンプトを作る必要はありません。

よくある誤解は、

AIをうまく使うには、正しい呪文を覚えなければいけない。

というものです。でも、実際にはそうではありません。

もちろん、よく使う型や便利な言い回しはあります。ただ、初めての仕事、慣れていない仕事、何を渡せばよいか分からない仕事では、最初から正解のプロンプトを書くのは難しいものです。

では、どうすればよいのでしょうか。答えは簡単です。

AIに聞けばよいのです。

「こういうことをしたいんだけど、何を渡せばいい?」
「より良い出力にするために、どんな情報が必要?」
「いきなり作らず、まず質問して」

こう聞けばよいのです。

AIは、人間のようにこちらの事情を勝手に理解してくれるわけではありません。でも、こちらが「何が必要か教えて」と頼めば、かなりの確率で、作業に必要な材料を整理してくれます。

第3回で体験してほしいのは、この感覚です。

分からなければ、AIに聞いてよい。

ただし、AIの言うことを丸ごと信じるのではなく、人間が見ながら整えていく。

02

今回扱う3つの実演

第3回では、以下の3つを扱います。

  1. 資料作り:AIに「何を渡せばいいか」を聞きながら進める
  2. AI相談:相談してよい。ただし、相手の性質を分かったうえで相談する
  3. 会話のお引越し:コンテキストが濁ったら、新しい作業机に移る

この3つは、一見すると別々の使い方に見えます。でも、共通していることがあります。

AIに一発で正解を出させようとしていない。

人間が作業机を整えながら、AIと対話している。

03

実演1:資料作り ── AIに「何を渡せばいいか」を聞きながら進める

第2回では、講師が第1回フォローアップ記事を作る過程を実演しました。そのときは、

  • 何を作りたいか
  • 元になる台本
  • 実際に話した内容
  • どんな形式にしたいか
  • 見出し案を先に作ってほしいこと
  • 最後に全文化してほしいこと

を、こちらから順番にAIへ渡していきました。つまり、講師側が「何をコンテキストに置けばよいか」をある程度分かっていた状態です。

でも、初めてAIを使う人、慣れていない人は、そもそもここで困ります。

何を渡せばいいの? どこまで説明すればいいの? いきなり資料を作ってと言っていいの? 背景や目的はどれくらい細かく書けばいいの?

この状態で止まってしまう人は多いです。だから第3回では、同じような資料作りをもう一度やります。ただし、今回は出発点を変えます。

こちらが最初から完璧な材料を用意するのではなく、AIに「何が必要か」を聞く。

これが今回のポイントです。今回作るのは、架空の「社内向け生成AI勉強会」の企画書です。ただし、目的は企画書を完成させることだけではありません。目的は、

資料を作るために必要なコンテキストを、AIと一緒に洗い出すことです。

Step 1:まずは雑に頼んでみる

新しいチャットを開いて、以下を入力します。

社内向けの生成AI勉強会の企画書を作りたいです。

でも、何をAIに伝えればよいのか、まだよく分かっていません。

いきなり企画書を書かず、まず「良い企画書を作るために必要な情報」を
整理してください。
そのうえで、私に質問してください。

ここでは、AIにいきなり企画書を書かせません。まず、何を渡せばよいかを聞くことから始めます。AIは、おそらく次のような項目を聞いてきます。

  • 企画の目的
  • 対象者
  • 開催形式
  • 実施時期
  • 予算
  • 現在の課題
  • 期待する成果
  • 決裁者が気にすること

これが、まさにコンテキストの材料です。

Step 2:AIの質問に答える

AIが質問してきたら、以下の架空設定を貼ります。

質問に回答します。

【企画の目的】
社内で生成AIを使う人が増えているが、使い方にばらつきがあります。
便利な活用方法だけでなく、情報管理やハルシネーションへの注意も含めて、
基本的なAIリテラシーを高めたいです。

【対象者】
全社員向けです。
特に、AIを少し触ったことはあるが、業務で本格的に使うには
不安がある人を想定しています。

【実施形式】
オンライン開催です。
60分のセミナー形式にしたいです。
可能であれば録画を残して、あとから見られるようにしたいです。

【実施時期】
来月中旬を想定しています。

【背景】
最近、社員が個別に生成AIを使い始めています。
一方で、個人情報や社内資料をどこまで入力してよいか、AIの回答を
どこまで信じてよいかについて、共通認識がありません。

【制約】
予算は大きくかけられません。
外部講師を呼ぶ場合は、費用対効果を説明する必要があります。
参加は任意ですが、なるべく多くの社員に参加してほしいです。

【決裁者が気にしそうなこと】
業務効率化につながるのか。
情報漏えいなどのリスクを減らせるのか。
社員が実際に参加する価値があるのか。
費用や準備負担が大きすぎないか。

AIの質問に答えることで、作業机の上に必要な材料が並んでいきます。重要なのは、「最初から全部分かっていた」わけではないことです。AIに聞いたから、何を並べればよいかが見えてきたのです。

Step 3:まだ足りない情報を聞く

続けて、以下を入力します。

ありがとうございます。

ここまでの情報で、企画書の下書きを作る前に、まだ不足している
情報はありますか?

質問は多すぎると答えにくいので、重要度の高いものから5つ以内に
絞ってください。
それぞれ「なぜその情報が必要なのか」も説明してください。

AIは、こちらが見落としている論点を出してくれます。たとえば、

  • 参加人数の目安
  • 研修後にどんな行動変化を期待するか
  • 社内ルールとの関係
  • 実施後のフォロー
  • 成果の測り方

などです。AIに「質問させる」ことで、人間側の思考も深まります。

Step 4:追加質問に答える

以下を入力します。

追加質問に回答します。

【参加人数の目安】
全社員200名のうち、リアルタイム参加は50名程度、アーカイブ視聴を
含めて100名程度を想定しています。

【期待する行動変化】
参加者が、生成AIの基本的な仕組み、注意点、業務で使う際の基本
ルールを理解することです。
特に、個人情報や社内情報をむやみに入力しないこと、AIの回答を
そのまま信じず確認することを理解してほしいです。

【社内ルールとの関係】
現時点では、生成AI利用に関する明確な社内ルールはまだありません。
今回の勉強会をきっかけに、最低限の共通認識を作りたいです。

【実施後のフォロー】
まずは1回実施し、反応が良ければ部門別の活用研修につなげたいです。

【予算感】
外部講師を呼ぶ場合は10万円以内に収めたいです。

Step 5:いきなり本文ではなく、構成案を作る

続けて、以下を入力します。

ここまでの内容をもとに、上司に提案する企画書の構成案を
作ってください。

いきなり本文を書かず、まずは見出し案と、各見出しで書くべき内容を
整理してください。

また、決裁者が判断しやすくなるように、どの章でどの不安を
解消するのかも説明してください。

資料作りでは、いきなり本文に入らない方がよいことが多いです。先に構成を作ることで、

  • 論点の抜け
  • 順番の違和感
  • 決裁者に伝わりにくい部分
  • 強調すべき点

を確認できます。

Step 6:下書きを作る

構成案を確認したら、以下を入力します。

この構成案で進めます。

上司に提出するための企画書の下書きを作成してください。

条件:
- 社内提案資料として使える、やや丁寧な文体にしてください。
- 具体的に書いてください。
- ただし、事実として与えていないことは断定しないでください。
- 各項目は長くなりすぎないようにしてください。
- 最後に「人間が提出前に確認すべきこと」も付けてください。

Step 7:決裁者目線でレビューする

続けて、以下を入力します。

この企画書を、決裁者の視点でレビューしてください。

以下の観点でお願いします。

1. 説得力がある点
2. まだ弱い点
3. 決裁者から質問されそうな点
4. 追加した方がよい情報
5. この企画を通すために、表現を改善した方がよい箇所

AIは、作るだけでなく、レビューにも使えます。ただし、AIのレビューも絶対ではありません。最終的に何を採用するかは人間が決めます。

実演1のまとめ

この実演で体験したのは、「企画書作成プロンプトの正解」ではありません。体験したのは、

何を渡せばよいか分からないとき、AIに聞きながら作業机を整えていく方法です。

AIにこう聞いてよいのです。

この作業を進めるために、私から何を伝えればよいですか?
より良い出力にするために、不足している情報を質問してください。
いきなり作らず、まず論点を整理してください。

これで十分です。AI活用は、最初から正解を覚えるものではありません。分からなければ聞く。出てきた質問に答える。そのやりとりの中で、作業机が整っていく。

これが「指示ではなく対話する」ということです。

04

実演2:AIに相談してよいのか ── 相手の性質を分かったうえで相談する

次のテーマは、AI相談です。ここで、まず問いを立てます。

そもそもAIに相談してよいのでしょうか?

第1回で学んだように、生成AIは、次に続く自然な文章を生成しているだけです。正しいか間違いかを、人間のように責任を持って判断しているわけではありません。

そんなAIに、仕事の悩み、人間関係の悩み、自分の考え方について相談してよいのでしょうか。答えは、

相談してよいです。

ただし、条件があります。

AIがどういう相手なのかを分かったうえで相談すること。

人に相談するとき、私たちは相手を選んでいる

身の回りの誰かに相談する場面を考えてみてください。友人、家族、同僚、上司、先輩、専門家。誰に相談するかによって、話す内容を変えているはずです。

たとえば、

  • この人は親身に聞いてくれるけど、少し心配しすぎる
  • この人は的確だけど、言い方が厳しい
  • この人は励ましてくれるけど、問題点の指摘は弱い
  • この人は口が軽いから、細かい事情までは話さない
  • この人は専門家ではないから、最終判断は別で確認する

私たちは、人に相談するとき、無意識にその人の特徴を見ています。AI相談も、それと同じです。

AIだから絶対安全、ということではありません。AIだから絶対危険、ということでもありません。大切なのは、

AIという相談相手の性質を理解して、何を相談し、何を相談しないかを選ぶことです。

AI相談で注意すべき性質

AIには、相談相手として便利な面があります。

  • いつでも話を聞いてくれる
  • 感情を整理してくれる
  • 言葉にしにくいモヤモヤを言語化してくれる
  • 選択肢を出してくれる
  • 反対意見を出してくれる
  • メールや伝え方を整えてくれる

一方で、注意すべき性質もあります。特に重要なのは、

AIは、ユーザーに寄り添いすぎることがある、という点です。

現在の多くのAIは、ユーザーに役立つこと、丁寧であること、攻撃的にならないことを重視して調整されています。その結果、相談場面では、ユーザーを強く否定せず、まず肯定的に受け止める方向に流れやすいことがあります。

たとえば、

「私は悪くないですよね?」
と聞くと、AIは「あなたは悪くありません」と言える材料を探しにいくことがあります。

「やっぱり相手が間違っていますよね?」
と聞くと、「相手に問題がある可能性」を自然に補強してくれることがあります。

もちろん、慰めてほしいときには、それが助けになることもあります。でも、仕事上の判断や人間関係の相談では、それだけでは危険です。

研究から見えている注意点

AIがユーザーに過度に同調することは、英語では「sycophancy(サイコファンシー)」と呼ばれます。日本語では「おべっか」「過度な迎合」「過度な同調」といった意味です。

スタンフォード大学の研究紹介では、複数のAIモデルが対人相談において、人間よりもユーザーの立場を肯定しやすいこと、そしてユーザーはそのような同調的なAIを信頼しやすい一方で、自分が正しいという確信を強めたり、相手への謝罪や関係修復を行う意向が下がったりする傾向が報告されています。

また、関連するプレプリント研究では、過度に同調的なAIとのやりとりが、その後の人間同士のやりとりを、より手間がかかるもの・満足度の低いものに感じさせる可能性が示されています。

OpenAIも、2025年にGPT-4oの一部更新で応答が過度にお世辞的・同調的になったとしてロールバック(変更の取り消し)を行っており、こうした振る舞いはユーザーの体験や信頼に影響しうると説明しています。[参考資料]

これは、「AI相談は危険だからやめましょう」という意味ではありません。むしろ逆です。

AI相談は役に立つ。

だからこそ、AIがどういう方向に寄りやすいのかを知ったうえで使う必要があります。

もう一つの相談:「教えてもらう」ときは、また別の注意が必要です

ここまで見てきたのは、自分の考えや判断について、AIに整理を手伝ってもらう相談でした。もう一つ、よくある相談の形があります。自分が知らないこと、専門的なことを「教えてもらう」相談です。

法律の初歩的な考え方、税金の扱い、健康に関する一般的な情報、技術的な仕組みなど。自分に知識がない分野について、AIに聞いて理解を進めたい場面は多いはずです。

ここで、第1回の内容を思い出してください。AIは、次に続く文章として一番自然なものを生成しているだけで、それが真実かどうかを確かめる力を、そもそも持っていません。つまり、

専門的なこと、自分が知らないことを教えてもらう相談は、AIの回答をまるごと信頼することはできません。

これは、AIが不誠実だからではありません。AIの仕組み上、避けられない性質です。しかも厄介なことに、自分が答え合わせできない分野ほど、もっともらしい誤りに気づきにくくなります。

では、教えてもらう相談をするときは、何ができるでしょうか。少なくとも3つの方法があります。

1. 情報源を教えてもらい、自分で確認する

「なるほど」で終わらせず、根拠を尋ねます。

この回答の情報源を教えてください。
可能であれば、参照できるURLや文献名、制度名を挙げてください。

ただし、注意が必要です。第1回で見たように、AIは「それらしい引用」自体をもっともらしく作り出してしまうことがあります。AIが挙げた情報源も、実際に開いて存在を確かめるまでは、確定した事実として扱わないでください。

2. 別のAIにチェックしてもらう

回答をそのまま鵜呑みにせず、検証用の要約を作ってもらい、別のAIに投げます。

この回答を、別のAIでファクトチェックしてもらうための要約を
作ってください。

事実として述べられている点を中心に、検証しやすい形にして
ください。
断定している箇所と、断定を避けている箇所も分かるようにして
ください。

その要約を、新しいチャットや別のAIに貼り、次のように頼みます。

上記の内容について、事実として正しいかどうかを慎重に
検討してください。

誤りや不確かな点、断定できない点があれば指摘してください。

3. 最終的には、人間が責任を持つ

情報源を確認しても、別のAIに聞いても、100%の保証にはなりません。特にお金、健康、法律、契約など、判断を誤ると影響が大きい場面では、AIの回答は「たたき台」までです。最終的には、公的な一次情報に当たる、専門家に確認するなど、人間が責任を持って確かめる必要があります。

おすすめの型

気軽な一般常識レベルの質問は、そのまま聞いて構いません。

専門性が高い質問や、自分の意思決定に影響する質問は、最初から情報源をセットで聞く習慣をつけます。

法務・医療・お金など特に重要な場面では、必ず一次情報か専門家に当たり、AIの回答はその下調べとして使います。

会話の最後に「この回答の中で、特に確認が必要な部分はどこですか?」とAI自身に聞くのも有効です。AI自身に、自分の回答の中の弱い部分を申告させることができます。

実演2のゴール

AI相談では、次のことを体験します。

  • 普通に相談すると、AIは寄り添ってくれる
  • 相談の目的を明示すると、回答の質が変わる
  • 「慰めてほしい」のか「冷静に整理してほしい」のかを分ける
  • AIの回答に含まれる事実・推測・不明点を分ける
  • 必要なら別セッションや別AIで検証する

Step 1:まずは普通に相談する

新しいチャットを開いて、以下を入力します。

上司に新しい企画を提案したのですが、反応があまり良くありません
でした。

私はかなり準備したつもりです。
でも、上司はあまり内容を理解してくれていないように感じます。

正直、少し納得がいきません。
どうしたらいいでしょうか?

AIは、おそらくあなたの気持ちに寄り添いながら、穏当なアドバイスを返してくれます。それ自体は悪いことではありません。まず受け止めてもらうことで、落ち着いて考えられることもあります。ただし、この段階ではAIは、主に「こちら側の言い分」をもとに答えています。

Step 2:相談の目的を明示する

続けて、以下を入力します。

ありがとうございます。

ただ、今回は慰めてほしいというより、冷静に状況を整理したいです。

私に寄り添いすぎず、第三者の視点で見てください。

以下の観点で整理してください。

1. 私の考えや準備に弱かった可能性がある点
2. 上司側に合理性がある可能性
3. 私が見落としているかもしれない前提
4. 追加で確認すべき事実
5. 今すぐ感情的に判断しない方がよい理由

AIの回答の雰囲気が変わるはずです。AIには、最初に「どんな相談相手として振る舞ってほしいか」を伝えることができます。これはとても大切です。

Step 3:相談の目的を分ける

続けて、以下を入力します。

この相談について、私がAIに頼んでよいことと、AIに任せすぎない
方がよいことを分けてください。

以下の4つに分けてください。

1. 感情の整理としてAIに頼めること
2. 仕事の進め方の整理としてAIに頼めること
3. 事実確認として人間が確認すべきこと
4. AIに判断させず、自分や関係者が決めるべきこと

AIに相談すること自体は問題ありません。ただし、

  • 感情の整理
  • 論点整理
  • 事実確認
  • 判断
  • 行動

を分ける必要があります。AIは、整理や選択肢出しには使えます。しかし、重要な判断や、相手との関係に影響する行動は、人間が責任を持って決める必要があります。

Step 4:反対意見を出してもらう

続けて、以下を入力します。

私の立場に反対する意見を、あえて出してください。

上司の立場から見た場合、この企画提案に対してどのような懸念や
反論があり得るかを整理してください。

ただし、人格批判ではなく、業務上の合理的な懸念として書いて
ください。

AIは、反対意見を出す相手としても使えます。自分の考えを強くするには、自分に都合のよい意見だけでなく、反対意見も見る必要があります。

Step 5:事実と推測を分ける

続けて、以下を入力します。

ここまでのあなたの回答について、前提になっていることを
列挙してください。

そのうえで、以下に分けてください。

1. 私が明示した事実
2. あなたが推測していること
3. まだ分からないこと
4. 間違っている可能性があること
5. 人間が確認しないと判断できないこと

AIの回答には、明示された事実だけでなく、AIの推測が混ざります。相談では特に、その推測が自然に見えやすいです。だから、

事実・推測・不明点を分けることが重要です。

Step 6:別セッションで検証する要約を作る

続けて、以下を入力します。

この相談内容を、別のAIや別のチャットで検証するための要約に
してください。

ただし、私に有利な書き方に偏らないようにしてください。

以下の形式でお願いします。

1. 相談の概要
2. 私の主張
3. 上司側にあり得る事情
4. まだ確認できていない事実
5. 判断が分かれそうなポイント
6. 第三者に検討してほしい問い

この要約をコピーして、新しいチャットや別のAIに貼ると、別の角度から検証できます。ただし注意があります。

別のAIが同じことを言ったから正しい、というわけではありません。

別AIでの検証は、正解を保証するためではなく、視点を増やすための方法です。

AI相談で使える文言集

慰めてほしいとき

今は解決策よりも、まず気持ちの整理をしたいです。
否定せず、私が何に引っかかっているのかを言語化してください。

冷静に見てほしいとき

私に寄り添いすぎず、第三者の視点で見てください。
私の考えの弱いところも指摘してください。

反対意見がほしいとき

あえて反対の立場から、この考えの問題点を指摘してください。
ただし、人格批判ではなく、論点に集中してください。

事実と推測を分けたいとき

この回答の前提になっていることを列挙してください。
事実、推測、不明点、人間が確認すべきことに分けてください。

判断を急ぎたくないとき

今すぐ結論を出す前に、追加で確認すべきことを挙げてください。

実演2のまとめ

AIに相談してよいです。ただし、

相談相手としてのAIの性質を理解したうえで相談することが大切です。

AIは、あなたを励ましてくれるかもしれません。でも、必ずしもあなたを正してくれる先生ではありません。AIは、選択肢を出してくれるかもしれません。でも、最終判断の責任を取ってくれるわけではありません。

だから、相談するときは最初に伝えましょう。慰めてほしいのか。冷静に整理してほしいのか。反対意見がほしいのか。事実確認の観点がほしいのか。行動案がほしいのか。

AI相談の安全性は、AIだけで決まりません。人間が、AIにどんな相談相手として振る舞ってほしいかを設計することで、大きく変わります。

05

実演3:会話のお引越し ── コンテキストが濁ったら、新しい作業机に移る

最後の実演は、「会話のお引越し」です。AIとの会話が長くなると、作業机の上に情報が増えていきます。

  • 古い条件
  • 途中で捨てた案
  • 余談
  • 矛盾した指示
  • すでに不要になった情報
  • AIが出したけれど採用しなかった案

こうしたものが残っていると、AIの回答がだんだんズレることがあります。そのとき、何度も怒ったり、訂正したりするよりも、必要な情報だけを整理して新しいチャットへ移る方が早いことがあります。これを、ここでは

会話のお引越しと呼びます。

Step 1:わざと話題を混ぜたチャットを作る

新しいチャットを開いて、以下を順番に入力します。まず1つ目です。

これから社内向けの生成AI勉強会の企画を考えたいです。

まず、企画の目的、対象者、内容案を整理してください。

続けて入力します。

対象者は、AIを少し触ったことがあるが、業務利用には不安がある
社員です。

内容としては、以下を入れたいです。

- 生成AIの基本的な仕組み
- ハルシネーションへの注意
- 個人情報や機密情報を入力しないこと
- 実際の使い方のデモ

続けて入力します。

やっぱり、タイトル案も考えてください。

ただし、少し親しみやすく、堅すぎない雰囲気がいいです。

続けて入力します。

話は変わりますが、社内報に載せる短い告知文も作ってください。
少し明るいトーンでお願いします。

続けて入力します。

すみません、やっぱり告知文はいったん忘れてください。
企画書に戻りたいです。

ただし、タイトルは少し真面目な雰囲気にしてください。
先ほどの親しみやすい方向性は採用しません。

ここまで入力できたら、次を入力します。

では、ここまでの内容をもとに、上司に提出する企画書の下書きを
作ってください。

AIはそれなりに企画書を作るかもしれません。ただし、場合によっては、

  • 告知文のトーンを引きずる
  • 親しみやすいタイトル案を残す
  • 途中で捨てた条件が混ざる
  • 何を採用するのか曖昧になる

といったことが起きます。これは、作業机が散らかっている状態です。

Step 2:引き継ぎ資料を作らせる

続けて、以下を入力します。

この会話を新しいチャットに引き継ぐための「引き継ぎ資料」を
作ってください。

目的は、散らかった文脈を整理し、新しいチャットで企画書作成を
続けることです。

以下の項目に分けてください。

1. 今回の目的
2. これまでに決まったこと
3. 重要な前提
4. 採用しないこと・捨てること
5. 未決事項
6. 次にAIに頼みたいこと
7. 出力時に守ってほしい条件

条件:
- 新しいチャットの最初に貼れる形にしてください。
- 余談や不要な情報は入れないでください。
- 「採用しないこと・捨てること」を必ず明記してください。
- 簡潔に、でも必要な前提は落とさずにまとめてください。

単なる要約ではありません。

何を引き継ぐか

何を捨てるか

を分けることが重要です。AIの要約は、良くも悪くも多くの情報を拾います。だから、人間が「これはもう使わない」と明示することが大切です。

Step 3:引き継ぎ資料をチェックする

AIが出した引き継ぎ資料を見て、必要なら以下を入力します。

引き継ぎ資料を見直してください。

特に、以下を確認してください。

1. すでに捨てると決めた内容が残っていないか
2. 新しいチャットで必要な前提が抜けていないか
3. 未決事項と決定事項が混ざっていないか
4. 次に頼みたいことが明確になっているか

必要があれば、引き継ぎ資料を修正してください。

Step 4:新しいチャットに引っ越す

新しいチャットを開きます。Step 2またはStep 3で作った引き継ぎ資料を貼り付けます。その下に、以下を追加します。

上記の引き継ぎ資料を前提に、この作業を続けます。

ただし、過去の会話そのものは参照できないものとして扱ってください。
この引き継ぎ資料に書かれていないことは、勝手に補わないでください。

不明点や矛盾があれば、作業を始める前に質問してください。

まずは、上司に提出する企画書の構成案を作ってください。

新しいチャットでは、作業机がきれいになっています。過去の余談や、捨てたはずの案に引っ張られにくくなります。これが「会話のお引越し」です。

会話のお引越しテンプレート

普段使うなら、以下をそのまま使えます。まず、いまの会話で入力します。

この会話を新しいチャットに引き継ぐための「引き継ぎ資料」を
作ってください。

以下の項目に分けてください。

1. 今回の目的
2. これまでに決まったこと
3. 重要な前提
4. 採用しないこと・捨てること
5. 未決事項
6. 次にAIに頼みたいこと
7. 出力時に守ってほしい条件
8. 人間が確認すべきこと

条件:
- 新しいチャットの最初に貼れる形にしてください。
- 不要な会話や余談は入れないでください。
- 決定事項と未決事項を混ぜないでください。
- 捨てた案や採用しない方針を明確にしてください。

新しいチャットでは、以下をセットで使うと安定します。

上記の引き継ぎ資料を前提に、この作業を続けます。

過去の会話そのものは参照できないものとして扱ってください。
引き継ぎ資料に書かれていないことは、勝手に補わないでください。
不明点や矛盾があれば、作業を始める前に質問してください。
06

3つの実演に共通すること

今回の3つの実演は、それぞれ次のように見えます。

  • 資料を作る
  • 相談する
  • 会話を引っ越す

でも、本質は同じです。

AIの作業机を、人間が整えている。

資料作りでは、AIに「何を渡せばよいか」を聞きました。相談では、AIに「どんな相談相手として振る舞ってほしいか」を伝えました。会話のお引越しでは、AIに「何を引き継ぎ、何を捨てるか」を整理させました。

つまり、AI活用とは、

AIに正解を出させることではなく、AIと一緒に文脈を整えていくことです。

07

AIと仕事を進める5ステップ

最後に、第3回のまとめとして、AIと仕事を進める5ステップを整理します。

1. 目的を決める

何を作りたいのか。何を考えたいのか。誰のための出力なのか。まず人間が決めます。

2. 何を渡せばよいか、AIに聞く

最初から完璧なプロンプトを書こうとしなくて大丈夫です。

この作業を進めるために、私から何を伝えればよいですか?
より良い出力にするために、不足している情報を質問してください。

ここから始めてよいです。

3. 材料を置く

AIに見てほしい情報を置きます。ただし、第2回で扱ったように、何でも置いてよいわけではありません。個人情報、機密情報、認証情報、社内の未公開情報などは慎重に扱います。

4. 対話しながら整える

AIの出力を完成品として扱わず、たたき台として使います。

  • 見出しを直す
  • 論点を足す
  • 反対意見を出させる
  • 事実と推測を分ける
  • 表現を調整する
  • 必要なら新しいチャットへ引っ越す

5. 人間が確認して決める

最後に判断するのは人間です。AIは、自然な文章を作るのが得意です。でも、それが正しいか、適切か、責任を持てるかを最終確認するのは人間です。

08

第3回のまとめ

AI活用とは、完璧なプロンプトを覚えることではありません。

分からなければ、AIに聞いてよい。

ただし、

AIの答えを丸ごと信じるのではなく、人間が手綱を握る。

これが大切です。

第1回で、AIは文脈をもとに自然な文章を生成していると学びました。
第2回で、作業机に何を置くべきか、何を置いてはいけないかを学びました。
第3回では、その作業机を、AIと対話しながら整える方法を体験しました。

この3回を通して伝えたかったのは、

AIの正しい使い方を覚えましょう

ではありません。本当は、

AIとの正しい付き合い方を、これから一緒に考え続けましょう、ということです。

AIの使い方に、完成された正解はまだありません。技術も、社会も、ルールも、私たちの働き方も、変わり続けています。

だからこそ、必要なのは「正解のプロンプト集」ではありません。必要なのは、

  • AIが何をしているのかを理解すること
  • AIに何を渡すかを考えること
  • AIに何を渡してはいけないかを判断すること
  • AIの出力を確認すること
  • AIと対話しながら、自分の考えも更新していくこと

です。AIに答えを任せるのではなく、AIとともに問いを深める。

その姿勢こそが、これからのAIリテラシーです。

09

講座後のおすすめ練習

練習1:よく作る文章で試す

報告書、案内メール、議事録、企画書など、普段よく作る文章で、次のプロンプトから始めてみてください。

この文章を作るために必要な情報を、先に質問してください。

練習2:相談の目的を分ける

悩んでいることを、実名や機密情報を避けて抽象化したうえで、次のように聞いてみてください。

この相談について、感情の整理、仕事上の論点、事実確認、
人間が判断すべきことに分けてください。

練習3:長くなったチャットを引っ越す

普段使っているAIのチャットで、長くなったものがあれば、次のように頼んでみてください。

この会話を新しいチャットに引き継ぐための資料を作ってください。
採用すること、捨てること、未決事項、次に頼みたいことに
分けてください。

参考資料

  • Stanford Report, "AI overly affirms users asking for personal advice"
  • Lujain Ibrahim et al., "Sycophantic AI makes human interaction feel more effortful and less satisfying over time"(プレプリント)
  • OpenAI, "Sycophancy in GPT-4o: what happened and what we're doing about it"